[対談] 山本昌知医師×想田和弘監督 対談抜粋

── 映画『精神』を観て

山本昌知医師×想田和弘監督 対談

想田:『精神』を患者さんたちとご覧になって、どういう感想をお持ちですか。

山本:全体としては感激するというか、そういう感じが強かったですね。僕が感じたのは、「分かる」ということ、理解できるということが、その内容の問題よりもすごく大事なんだということ。他の観客の感想も含めて特に感じましたな。

── 山本医師の原点:閉鎖病棟の鍵を外す

想田:こらーる岡山を立ち上げられる前までは、精神科の病院に勤務されていて、閉鎖病棟の鍵に疑問を持たれ、鍵を外してゆく運動をされたというのを聞いています。

山本:僕が赴任した病院は、閉鎖病棟が中心で、患者さんが多いし手が回らないわけですよ。僕は入院されている患者さんだけを診るといっても、それでも340人くらいはおられてね。結局は患者さんは部屋の中に閉じ込められていて、「あそこへいったら心が楽になるのに」とか思っても、行きたいところへ行けないわけですよ。そこで、患者さんと「誰が鍵をしめているのでしょう?」と、話し合いを始めたんですな。それは面白かったです。


── 誰が鍵をしめているのか?

山本:閉鎖病棟の中に、一番悪いと言われている怖い病棟があったんですね。そこでね、「誰が鍵をしめているのでしょう」というテーマで週に一回、話し合いをしたんですわ。患者さんは「医院長がしめてんだ」とか、治療者側を非難する。逆に看護者側は、「患者さんが無断で帰られたり、患者さんの行動がおかしいから鍵を使わざるを得んのだ」という話をされて。時間を決めてそれは終えて、次の週もまた、「誰が鍵をしめているのか」と反復していって、そのテーマだけでずっとやっていったんです。

 そうしたら、患者さんの方から、「わしらもまあ、おかしいわな」という話が出てきて。で、看護者の方も「患者さんのためでなく自分らの安心のためにかけとるんだ」という意見が出てきて。そのときにね、「看護者が」とか「患者さんが」とかいうんでなくて、「看護者も患者さんも一緒になって鍵を開けようではないか」ということで、鍵を開けたんですよ。そしたら結構上手くいくわけですわ。お互いに関心を持ち合う、共通の目標で、「鍵を開ける」という目的のためにお互いが気配りすると、うまくいくわけですわ。そんなで、その病棟では自由にバレーボールしたり遊びだすわけですわ。そうすると、他の病棟が「何でわしらは」と(笑)。

想田:一番重い人たちなのに、自由にしてる(笑)。

山本:それでね、今度はだんだんに自分らも自分らもと、病棟が開いていったわけです。

── 必要は発明の母

想田:医療者側だけではなくて、当事者を含めて議論されたというのが、ミソなんじゃないかなと思ったんですが。

山本:看護体制が不十分だったんですよ。だから必要にやむを得ずに、しょうがなくで。

想田:当事者本意で、というような理念よりも、しょうがない、皆さんの協力が必要だ、という。

山本:そう、そう。お願いします、言うようなもんですわ。必要は発明の母みたいなところもあるわけで。ピンチはチャンスでしょ。



[対談の全文は以下の書籍に掲載予定]
シリーズCura 「精神病とモザイク タブーの世界にカメラを向ける」
著者:想田和弘
価格:本体1400円(税別)
刊行:2009年6月中旬刊行予定
発行:中央法規出版